行為能力とは、契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力です。
行為能力を制限された者のことを「制限行為能力者」といい、民法には未成年者(4条)、成年被後見人(7条)、被保佐人(11条)、被補助人(15条)の4つが規定されています。
制限行為能力者4種類の制度(未成年・成年後見人・被保佐人・被補助人)について
未成年者
民法では、「年齢18歳をもって、成年とする。」(4条)と規定されています。未成年者とは18歳未満の人です。
未成年者には、法定代理人(親権者あるいは未成年後見人)が付きます。
この法定代理人は、第一次的には親権者がなり、親権者がいない場合などには後見人が選任されます。(838条1号)
未成年者が単独で行える行為は?
原則として、未成年者が法律行為を行うには法定代理人の同意が必要です。(5条1項本文)
法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は取消すことができます(5条2項)。
未成年者が単独で行える行為は
- 単に権利を得、または義務を免れる法律行為(5条1項但書)
- 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産をその目的の範囲内で処分する行為
- 法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産を処分する行為
- 法定代理人から営業を許された未成年者が営業に関する行為
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
(未成年者の営業の許可)
第六条 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
成年被後見人
「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」は一定の範囲の者(本人、配偶者等)の請求により、家庭裁判所で後見開始の審判を受けることができます。(民法7条)
第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
後見開始の審判を受けた者は成年被後見人となります。(8条)
成年後見人には同意見はありません。追認権はあります。
被保佐人
「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」が、家庭裁判所によって保佐開始の審判を受けた場合、被保佐人となります。(民法11条本文、12条)
保佐人には、13条の行為について同意権・取消権・追認権があります。
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
被補助人
「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」が家庭裁判所による補助開始の審判を受けた場合、被補助人となります。(民法15条1項本文、16条、876条の6)
本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。(民法15条2項)
補助人は審判で与えられた場合のみ同意権・取消権・追認権があります。
同意権は13条1項の行為の一部に限られます。代理権も審判で与えられた場合のみ有するが、代理権が与えられる範囲は13条1項の行為に限られません。
保護者の権限
未成年者 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 | |
---|---|---|---|---|
代理権 | 〇 | 〇 | △ (付与の審判がある場合) |
△ (付与の審判が必要) |
同意権 | 〇 | × | 〇 | △ (付与の審判が必要) |
取消権 | 〇 | 〇 | 〇 | 同意権がある場合は〇 |
追認権 | 〇 | 〇 | 〇 | 同意権がある場合は〇 |
※補助人に代理権または同意権が与えられるためには、代理権または同意権の一方または双方の付与の審判が必要です。
③ 補助開始の審判は、第17条第1項(補助人の同意を要する旨の審判等)の審判又は第876条の9第1項(補助人に代理権を付与する旨の審判)の審判とともにしなければならない。
制限行為能力者と取引した相手方の保護の制度
相手方の催告権(20条)
制限行為能力者の相手方は1カ月以上の期間を定めて、追認するかどうかの催告ができます。
催告の相手方が誰になるか
・本人が制限行為能力者である場合は、保護者(親権者・成年後見人)・被保佐人・被補助人に催告できます。
・本人が能力を回復した場合は制限行為能力者であった者に催告できます。
・未成年者・成年後見人にする催告はなんの意味もありません。
第二十条 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
制限行為能力者が詐術を使った場合(21条)
・制限行為能力者が行為能力者であると詐術を使った場合、相手が善意であれば取り消すことができなくなります。無過失までは問われません。
(制限行為能力者の詐術)
第二十一条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。