第177条【不動産に関する物権の変動の対抗要件】
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
民法177条の「第三者」とは
177条の「第三者」とは、「当事者もしくはその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺(けんけつ)を主張するにつき正当な利益を有する者」です(大判明41.12.15)
第三者に該当する者(登記がなければ対抗できない第三者)
① 二重譲渡の譲受人(最判昭33.10.14)
② 共有持分が譲渡された場合の他の共有者(最判昭46.6.18)
③ 差押債権者(最判昭31.4.24など)
④ 仮差押債権者(大判昭9.5.11)
⑤ 処分禁止の仮処分債権者(最判昭30.10.25)
⑥ 賃貸不動産が譲渡された場合の対抗要件を備えた賃借人(最判昭49.3.19)
第三者に該当しない者(登記なくして対抗できる第三者)
① 無権利者及びその譲受人・転得者(最判昭34.2.12)
⇒不実の登記の名義人など
② 不法行為者、不法占拠者(最判昭25.12.19)
③ 一般債権者(大判大4.7.12)
④ 不動産が転々と譲渡された場合の前主(最判昭39.2.13)
⇒前主・後主の関係にある者
⑤ 詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた者(不登5条1項)
⑥ 他人のため登記を申請する義務がある者(不登5条2項)
⇒法人のの代表者、法定代理人(親権者)、未成年後見人、不在者の財産管理人、遺言執行者等の法定代理人、委任による代理人(司法書士など)
⑦背信的悪意者
悪意者は「第三者」に含まれるか
悪意者は「第三者」に含まれます。
【理由】
・不動産売買等は自由競争として保護されるべきだから
・条文上も善意は要求されていない
背信的悪意者は「第三者」に含まれるか
背信的悪意者とは登記の欠缺を主張することが信義則に反して許されない者です。
背信的悪意者は177条の「第三者」に含まれません。
【理由】
・背信的悪意者は登記の欠缺を主張する正当な利益を有しません。
・不動産登記法5条(登記がないことを主張することができない第三者)によって背信的悪意者は登記欠缺の主張することができません。
背信的悪意者の例は「特定の人に対する復讐目的で取得した者」などです。
登記を対抗要件とする物権変動(取消・解除・時効取得の場合)
取消しと登記
取消前の第三者
「制限行為能力の取消し」「強迫による取消し」の場合
制限行為能力者と被強迫者は、登記なくして取消し前の第三者に対抗することができます。
「錯誤による取消し」「詐欺による取消し」の場合
表意者は登記なくして第三者に対抗できます。
ただし善意・無過失の第三者には、登記なくして対抗できません。
取消後の第三者
二重譲渡の関係として対抗関係になります。よって先に登記を備えた者が物件を取得します(大判昭17.9.30)。
解除と登記
解除前の第三者
【原則】解除者は登記なくして第三者に対抗できます。解除前の第三者と解除権者は対抗関係になりません。
【例外】
登記を備えた第三者には対抗できません。解除前の第三者が民法545条1項ただし書によって保護されるためには対抗要件を備える必要があります。
解除後の第三者
解除前の第三者と解除権者は対抗関係になります。先に登記を備えたものが優先します。(最判昭35.11.29)
取得時効と登記
時効完成前の第三者
・時効完成前の第三者は登記が不要です。
時効完成前の第三者は時効完成当時の当事者です。そのため第三者にあたりません。
時効完成後の第三者
・時効完成後の第三者は登記が必要です。時効完成後の第三者と時効取得者は対抗関係にあります。
時効完成後の第三者が登記をした後、その土地の占有者が再び取得時効に必要な期間占有を継続して時効が完成した場合、その第三者に対しては登記しないで対抗できます。
登記を対抗要件とする物権変動(相続の場合)
Aの共同相続人をBとC、相続した不動産を甲土地とする。
A(甲土地)
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B C
ケース1.相続人の一人が無断で単独名義の登記をした場合
Bが無断で単独名義の登記をして甲土地の全てをYに譲渡した場合
Cは登記なくして自己の持ち分をYに対抗できる
ケース2.相続人の一人が相続放棄した後、別の相続人の債権者が法定相続登記をして差押えた場合
Bは登記なくしてYに単独相続による所有権取得を対抗できる。
登記を対抗要件とする物権変動(遺贈の場合)
被相続人AからBが甲土地の遺贈を受けた。
Aの相続人Cが甲土地をDに売却した。
【結論】
BはDに対して登記がなければ所有権を対抗できない
【理由】
被相続人Aから不動産の権利を取得したBは民法第177条の「第三者」に該当します。
登記なくして甲土地の取得を第三者に対抗することはできません。
登記が必要な権利は?
・登記を対抗要件とする不動産物権は、所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・配偶者居住権・採石権です。(不登法3条)
【関連判例】
弁済その他の原因により債権が消滅し、その債権を担保する抵当権が消滅した場合には、抵当権の付従性による抵当権消滅について登記を要しません(大決昭8.8.18)
借地権や借家権は登記以外を対抗要件とする
建物所有目的の賃借権や地上権には、借地借家法が適用されます。
借地権や借家権については次の対抗要件があります。
・借地権は、土地の上の建物の登記を借地権の対抗要件とする(借地借家法10条)
・借家権は、建物の引渡しをもって借家権の対抗要件とすることができる(借地借家法31条)
第10条(借地権の対抗力)
借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。第31条(建物賃貸借の対抗力等)
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
先取特権について
一般の先取特権は、不動産について登記がなくても、一般の債権者に対抗できます。(336条)
一般の先取特権とは、債務者の財産から他の債権者よりも優先的に弁済を受ける権利です。
不動産に登記をする先取特権は「不動産の先取特権」です。