【民法総則】虚偽表示(94条)のポイント

虚偽表示(きょぎひょうじ)とは、相手方と通じて虚偽の意思表示をすることです。

(虚偽表示)
第94条
1.相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2.前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

虚偽表示は、相手方と通じて、表示された効果意思に対応する内心的効果意思が欠けていることを知りながらする意思表示です。「通棒虚偽表示(つうぼうきょぎひょうじ)」ともいいます。

虚偽表示の効力

・虚偽表示は原則として無効です。
・例外として善意の第三者には無効を対抗することができません。(94条2項)
⇒当事者間では無効扱いです。

94条2項の虚偽表示の第三者とは?

判例によると「虚偽の意思表示の当事者またはその一般承継人以外の者であって、その表示の目的につき新たに法律上利害関係を有するに至った者」を言います。

ポイントは次の3つです。
1新たに
2独立した
3法律上の

第三者に該当する例

  • 不動産の仮装譲受人から譲り受けた者(最判昭28.10.1)
  • 不動産の仮装譲受人から抵当権の設定を受けた者(大判大4.12.17)
  • 虚偽表示の目的物に対して差押えをした債権者(最判昭48.6.28)
  • 仮装債権の譲受人(大判大13.12.17)

第三者に該当しない例

  • 仮装譲受人の単なる一般債権者(大判大9.7.23)
  • 債権の仮装譲受人から債権の取立てのために債権を譲り受けた者(大判大8.6.16)
  • 土地賃借人がその所有する借地上の建物を仮装譲渡した場合の土地を所有する土地賃貸人(最判昭38.11.28)
  • 土地の仮装譲受人が、その土地上に建物を建築し、その建物を賃貸した場合の建物賃借人(最判昭57.6.8)
    ⇒土地と建物は別個の不動産であり、建物の賃借人は土地の仮装譲渡について法律上の利害関係がないため
    ⇒批判の多い判例なので「そういうもんだ」と丸覚えしてしまうのも一つの作戦です。

  • 先順位抵当権が仮装放棄され、目的物につき順位上昇を主張する後順位抵当権者
  • 仮装譲渡の当事者の単なる債権者
  • 仮装譲渡された債権の債務者
  • 代理人や法人の理事が虚偽表示した場合の本人や法人

第三者の対抗要件を備えることの要否

(1)ABが虚偽表示をして善意の第三者Cに譲渡したケース

A⇒B⇒C

(結論)善意の第三者Cは登記を備える必要はない
CはAに対して登記なくして権利者であることを主張できる。

(2)ABが虚偽表示をして善意の第三者Cに譲渡、AがDに二重譲渡したケース

A⇒B⇒C

D

(結論)CとDは対抗関係に立ち、先に登記を備えたものが優先する。

(3)善意の第三者Cから譲り受けた悪意の転得者D

A⇒B⇒C(善意の第三者)⇒D(悪意の転得者)

(結論)悪意の転得者Dは保護される(大判昭6.10.24)(絶対的構成説)

※相対的構成説では悪意の転得者は有効に権利を取得できない
94条2項は権利の外観を信頼した者の保護を重視する。

(4)悪意の第三者Cから譲り受けた善意の転得者Dは94条2項の第三者に含まれるか?

A⇒B⇒C(悪意の第三者)⇒D(善意の転得者)

(結論)善意の転得者Dは94条2項の第三者に含まれる

民法第94条第2項の類推適用

相手方との通謀虚偽表示の意思表示は原則として無効であるが、実際には相手方との「通謀」が存在するとはいえないような事例も多いです。

1権利の外観の存在
2権利者の帰責性
⇒通棒はなくとも外観があることに真の権利者の帰責事由があること
3第三者の正当な信頼
真の権利者の帰責性が大きければ保護要件は軽くなる(善意だけで保護される)
帰責性が小さければ保護要件は重くなる(善意無過失なら保護される)

判例は通謀性に欠けるケースであっても、できるだけ94条を類推適用し、善意無過失の第三者を保護しようとしている。

1.本人Aが相手方Bの承諾なく、AB間の売買を仮装したケース
⇒本人Aが相手方Bに知らせないまま仮装の土地売買契約を行った
⇒これを知ったBが登記名義を利用して第三者Cに売却した
(結論)Aは善意の第三者であるCに対してAB間の土地売買契約の無効を主張できない

2.相手方Bが本人Aの承諾なく、AB間の売買を仮装したケース
⇒Bが勝手にAの土地を購入する土地売買契約書を作った
⇒さらにBがこの土地をCに転売した
⇒Aが虚偽の登記がなされたことに気付きながら黙認していた
(結論)Aは善意無過失のCに対して、AB間の売買契約の無効を主張できない

3.本人Aと相手方Bが仮装の仮登記をしていたところ、相手方Bが本人の承諾を得ないまま本登記をして、Bが登記名義を取得したケース
⇒AB間で仮登記については通謀があったが、本登記はBが勝手に行なった
(結論)Aは善意無過失のCに対して、AB間の売買契約の無効を主張できない

※「仮登記」とは、本登記をするための準備のようなものです。

意思表示のルールまとめ

心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫の要点を表にしています。

  当事者間 第三者との関係
心裡留保 原則は有効。
相手方が事情を知っていたり、知ることができた場合は無効
有効。善意の第三者には無効を主張できない
虚偽表示 原則は無効 善意の第三者に対しては無効を主張できない
錯誤 基本的に有効
取消できる。
ただし表意者に重大な過失がある場合は、原則として取消せない
善意無過失の第三者には取消を主張できない
詐欺 基本的に有効
取消できる。
善意無過失の第三者には取消を主張できない
強迫 基本的に有効
取消できる。
善意無過失の第三者にも取消を主張できる
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