【民法総則】任意代理と法定代理とは?(代理part1)┃代理権の範囲、代理と使者、代理権の濫用、代理権の消滅事由)

任意代理と法定代理とは?

法定代理は、法律の規定や裁判所の選任によって代理権が生じます。本人の意思とは関係ありません。

法定代理の例は、未成年者の法定代理人である親権者、後見人や保佐人・補助人があります。

法定代理人の代理権の範囲は、法律によって決まっています。

任意代理では、本人の意思に基づく代理権授与によって代理権が生じます。

任意代理の例は、弁護士が委任契約に基づいて、本人に代わって訴訟を行うことなどです。

任意代理人の代理権の範囲は、委任の内容によって定まります。

法定代理人の代理権の範囲

法定代理人の代理権の範囲は、法律によって決まっています。

例えば、親権者は未成年者の財産を管理しその財産に関する法律行為について子を代表する権限があります。(民法824条本文)

第824条【財産の管理及び代表】親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

一方で親権者の代理権には以下のような制限があります。
・親権者が子に許可した営業(民法6条1項)
・親権者と子の利益相反行為には、特別代理人の選任が必要です(民法826条1項)。利益相反行為の例としては、遺産分割や子の不動産への抵当権設定があります。

後見人は、判断能力が低下した成年被後見人の代理します

関連:【民法総則】制限行為能力者(未成年・成年後見人・被保佐人・被補助人)

任意代理人の代理権の範囲(権限の定めのない任意代理人の代理権の範囲)

任意代理人の代理権の範囲は、委任の内容によって定まるのが原則です。

しかし、任意代理は委任契約時に代理権の範囲が定められていない場合があります。この場合、民法103条によって権限の範囲が保存行為・利用行為・改良行為に限定されます。

第103条【権限の定めのない代理人の権限】権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。

一 保存行為

二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

保存行為の例
・建物の修繕
利用行為の例
・短期賃貸借
・金銭を利息付で貸付ける
改良行為の例
・無利息の金銭貸付を利息付にする

任意代理の要件と効果

第99条【代理行為の要件及び効果】
① 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。② 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

【任意代理で本人に効果が帰属する要件(99条1項)】
①代理権授与
代理人が本人から代理権を与えられた
②顕名
代理人が本人に効果帰属させる旨(代理意思)を表示して意思表示をした
③代理権の範囲内である
代理行為がその代理権の権限内である

【任意代理の効果】
代理人のした意思表示の効果は本人に帰属します。(99条1項)
代理人が第三者から受けた意思表示の効果は本人に帰属します。(99条2項)

代理権の濫用(107条)

第107条【代理権の濫用】

代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

代理権の濫用とは、代理人が自己または第三者の利益のために、代理権の範囲内の行為を行うことです。あくまで代理権の範囲内の行為なのがポイントです。

【原則】
代理権の濫用による契約は、原則として有効です。
取引の安全の観点から、原則として契約は有効として相手方を保護しています。

【例外】
相手方が、代理人の目的について悪意又は善意有過失(知ることができたはず)の場合には、無権代理とみなされます。

代理権の濫用は有権代理の一類型です

代理権の濫用はあくまで有効な代理権がある場合の論点です。

関連:【民法総則】無権代理(代理part2)

自己契約と双方代理は原則として禁止されている

第108条【自己契約及び双方代理等】① 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

② 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

本人の利益を害する恐れがあるので「自己契約」「双方代理」は禁止とされています。

【自己契約とは】
双方代理とは、本人Aと相手方Bの場合に、代理人にBがなることをいいます。

【双方代理とは】
双方代理とは、本人Aと相手方Bで取引をする場合に、双方の代理人にCがなることをいいます。

もしも自己契約・双方代理をした場合には、代理権の範囲内の契約であっても「無権代理」となります。

自己契約と双方代理は原則禁止ですが、例外として、次の場合には代理行為が有効になります。
・債務の履行に過ぎない場合
・本人があらかじめ許諾していた行為

代理と使者の比較

代理と似た法律用語に「使者」があります。

代理
意思表示の決定権限:代理人にある
意思能力:必要
行為能力:不要
意思表示の判断:代理人を基準とする

使者
意思表示の決定権限:本人にある
意思能力:不要
行為能力:不要
意思表示の判断:本人を基準とする

復代理とは

「復代理」とは、代理人がさらに代理人を選ぶことです。

復代理人の地位や権限について(106条)

第106条【復代理人の権限等】

① 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。

② 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

・復代理人はその権限内の行為について「本人」を代表します。
・復代理人は本人のためにすることを要します。顕名するときは、本人のために代理行為を行うことを示す必要があります。
・復代理人の代理権の範囲は「原代理人の代理権の範囲」を超えることができません。
・「原代理人の代理権」が消滅すれば、「復代理人の復代理権」も消滅します
・復代理人は「本人および第三者」に対し、原代理人と同一の権利を有し義務を負います。

復代理人は本人に対して受領物引渡義務があります。ただし、復代理人が原代理人に対して受領物を引き渡したときは、本人に対する受領物引渡義務が消滅します。

任意代理と法定代理における復代理の比較

第104条【任意代理人による復代理人の選任】

委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。

第105条【法定代理人による復代理人の選任】

法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

任意代理の場合
・復代理人を選任できるのは「本人の許諾を得たとき」または「やむを得ない事由があるとき」です。
・本人に対する責任は債務不履行の一般原則(415)で処理します。

法定代理の場合
・復代理人を自由に選任できます。
・復代理人の選任及び監督について過失がなくても全責任を負います。
・やむを得ない事由で復代理人を選任した場合は、選任および監督について責任を負います。

代理権の消滅事由

法定代理 任意代理
本人 代理人 本人 代理人
死亡 消滅 消滅 消滅 消滅
破産手続開始決定 消滅しない 消滅 消滅 消滅
後見開始の審判 消滅しない 消滅 消滅しない 消滅

民法の規定なら上記の通りです。

他の法律によって本人が死亡しても代理権が消滅しない場合があります。
・商行為の委任(商法)
・登記申請の代理権(不動産登記法、商業登記法)
・民事訴訟の代理権(民事訴訟法)

法定代理は
・本人・代理人の死亡
・代理人の破産手続開始決定、後見開始の審判
で消滅します。

任意代理は
・本人の後見開始の審判
では消滅しません。

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