行政書士試験の300点満点のうち、行政法は約112点(全体の約4割)を占める最大の得点源です。つまり、行政法を制する者は行政書士試験を制すると言っても大げさではありません。
一方で、「範囲が広すぎて何から手をつければいいか分からない」「用語が抽象的で頭に入らない」と、最初の段階でつまずく方も多い科目です。
この記事では、行政法を学び始める方に向けて、次のことを解説します。
- 試験における行政法の位置づけ(配点・出題形式)
- 行政法とはどんな科目か(イメージのつかみ方)
- 行政法の全体像と、各パートのつながり
- 初学者におすすめの勉強の順番
- このシリーズの読み方(記事一覧)
行政書士試験における行政法の位置づけ
配点と出題形式
行政書士試験は、択一式・多肢選択式・記述式の3つの形式で出題されます。科目別の配点は次のとおりです。
| 科目 | 択一式 | 多肢選択式 | 記述式 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 行政法 | 76点(19問) | 16点(2問) | 20点(1問) | 112点 |
| 民法 | 36点(9問) | - | 40点(2問) | 76点 |
| 憲法 | 20点(5問) | 8点(1問) | - | 28点 |
| 商法・会社法 | 20点(5問) | - | - | 20点 |
| 基礎法学 | 8点(2問) | - | - | 8点 |
| 一般知識等 | 56点(14問) | - | - | 56点 |
※配点・問題数は、受験する年度の試験要項で必ず最新の情報を確認してください。
なぜ行政法が合否を左右するのか
理由は大きく3つあります。
- 配点が最大:全体の約4割を占めるため、ここで落とすと他の科目で挽回するのが難しくなります。
- 3つの形式すべてで出題される:択一式・多肢選択式・記述式のすべてに登場する唯一の科目です。
- 学習の成果が点数に表れやすい:条文と判例が中心なので、正しく学習すれば安定して得点できます。
合格基準は「全体で180点以上」に加え、「法令等科目で122点以上」「一般知識等科目で24点以上」と科目ごとの足切りもあります。法令等科目の核となる行政法は、まず固めておきたい科目です。
行政法ってどんな科目?まずはイメージをつかもう
行政法は「国や自治体と私たちの関係を定めたルール」
行政法とは、一言でいえば行政(国や地方公共団体)と私たちとの関係を定めたルールの総称です。
たとえば、次のような場面はすべて行政法の世界の話です。
- 飲食店を開くために、保健所から営業許可をもらう
- 税務署から税金の額を決める通知(課税処分)が届く
- 行政の決定に納得できないので、取り消してほしいと訴える
- 公務員の違法な行為で損害を受けたので、国や自治体に賠償を求める
つまり行政法は、「行政が私たちに何かをするとき、どんなルールで行われるのか」「行政の決定に不満があるとき、どうすればよいのか」を定めた分野なのです。
「行政法」という名前の法律は存在しない
初学者が最初に驚くのがここです。民法には「民法」、憲法には「日本国憲法」という法律がありますが、「行政法」という名前の法律はありません。
行政法は、行政に関するさまざまな法律をまとめて呼ぶ総称です。そのため試験では、次のように分けて学習します。
- 行政法総論:行政全般に通じる基本的な考え方(行政行為、行政裁量など)
- 行政法各論(個別の法律):行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法など
民法との違い
民法は、対等な私人同士(売主と買主、貸主と借主など)の関係を扱います。これに対して行政法は、行政と私人という、立場が対等ではない関係を扱います。
行政は、法律に基づいて一方的に私人の権利や義務を決める力(公権力)を持っています。この強い力を野放しにしないために、「行政がやってよいこと・いけないこと」を決め、行政の決定に不満がある人を救済する仕組みを整えているのが行政法です。
行政法の全体像(科目の地図)
行政法は大きく6つのパートに分かれる
試験で出題される行政法は、次の6つのパートに整理できます。
- 行政法総論:行政行為・行政裁量・行政立法・行政組織など、行政法の基礎
- 行政手続法:行政が処分をする際の事前の手続ルール
- 行政不服審査法:行政の処分に不満がある場合に、行政に対して不服を申し立てる制度
- 行政事件訴訟法:行政の処分に不満がある場合に、裁判所に訴える制度
- 国家賠償法・損失補償:行政の活動によって生じた損害を埋め合わせる制度
- 地方自治法:地方公共団体の仕組みと住民の権利(あわせて情報公開法・個人情報保護法も学習します)
各パートのつながり
6つのパートはバラバラに存在するのではなく、行政の活動の流れに沿ってつながっています。
【事前】行政手続法 → 【処分】行政行為(総論) → 【事後の救済】行政不服審査法・行政事件訴訟法 → 【損害の補てん】国家賠償法・損失補償
たとえば、「営業許可を申請したのに不許可になった」という場面で考えてみましょう。
- 審査はどんな基準・手続で行われる? → 行政手続法
- 不許可という決定の法的な性質は? → 行政行為(総論)
- 決定に納得できないときは? → 行政不服審査法・行政事件訴訟法
- 違法な決定で損害を受けたときは? → 国家賠償法
このように、1つの場面を通して眺めると、各パートの役割が見えてきます。なお、地方自治法は「自治体の仕組み」を扱う独立したパートですが、条例や住民訴訟などの形で他のパートと関わります。
初学者におすすめの勉強の順番
基本は「総論でイメージ → 各論を条文ベースで固める」
最初に総論で行政法の考え方をざっくりつかみ、そのあと各論(行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法など)を条文ベースで固めていく流れがおすすめです。
総論で深入りしすぎない
行政法総論は抽象的な概念が多く、最初から完璧に理解しようとすると挫折しやすい分野です。初めての学習では、「そういう考え方があるんだな」という概要の把握で十分です。各論を学ぶうちに理解が深まり、あとから総論に戻ると「そういうことか」と腑に落ちる場面がよくあります。
条文を読む習慣をつける
行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法は、条文の知識がそのまま得点に直結します。テキストを読むだけでなく、条文もあわせて確認する習慣をつけましょう。
過去問は「一問一答」から始める
いきなり本試験形式の問題に取り組むと、ひっかけに戸惑って自信を失いがちです。最初は一問一答形式で「正しい・誤り」を判断する練習から始め、知識が定着してから本試験形式に進むのがスムーズです。
行政法の勉強でつまずきやすいポイント
- 用語が抽象的:公定力、不可争力、自力執行力など、日常で使わない言葉が次々に出てきます。身近な具体例に置き換えながら覚えましょう。
- 3つの法律の混同:行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法は、似た用語が多く混同しがちです。「事前の手続なのか、行政への不服申立てなのか、裁判所への訴えなのか」と、まず役割で区別するのがコツです。
- 判例知識の量:行政事件訴訟法や国家賠償法では、判例が頻出します。結論だけを暗記するのではなく、「なぜその結論になるのか」を意識すると記憶に残ります。
このシリーズの読み方(記事一覧)
このブログでは、行政法を1記事1テーマに区切って、順番に読めば体系的に理解できるように解説していきます。基本的には上から順に読み進めるのがおすすめですが、気になるテーマから読んでも問題ありません。
行政法総論編
- 行政法の基本原理と法源:行政法の土台となる考え方
- 行政行為とは?概念と種類:行政法の中心概念
- 行政行為の効力(公定力・不可争力など)
- 行政行為の瑕疵と取消し・撤回
- 行政裁量をやさしく解説
- 行政立法(法規命令と行政規則)
- 行政契約と行政指導
- 行政上の強制措置(強制執行・即時強制・罰則)
- 行政組織法(行政機関・権限の委任と代理)
行政手続法編
行政不服審査法編
行政事件訴訟法編
- 行政事件訴訟法の全体像
- 取消訴訟の訴訟要件(処分性・原告適格など)
- 取消訴訟の審理と判決(違法性の主張・事情判決など)
- 取消訴訟以外の抗告訴訟(義務付け・差止めなど)
- 当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟と仮の救済
国家賠償法・損失補償編
地方自治法編
情報公開法・個人情報保護法編
まとめ
- 行政法は行政書士試験の約4割(112点)を占める最大の得点源
- 行政法は「行政と私人の関係を定めたルール」の総称で、「行政法」という名前の法律はない
- 全体像は事前の手続 → 処分 → 事後の救済 → 損害の補てんという流れで整理できる
- 勉強は「総論でイメージ → 各論を条文ベースで固める」のが近道。総論で深入りしすぎない
行政法は、全体像をつかんでから細部に進むと、ぐっと理解しやすくなります。まずは次の記事から、行政法の土台となる考え方を一緒に学んでいきましょう。
次の記事:行政法の基本原理と法源
