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行政書士試験行政法

【行政書士試験】行政行為の瑕疵と取消し・撤回をわかりやすく解説

行政法総論の第4回は、行政行為に瑕疵(欠陥)があった場合の扱いと、行政行為の効力をなくす方法である取消し・撤回です。

「取消し」と「撤回」は、日常では似た意味で使われますが、試験では明確に区別されます。違いを整理するカギは、「何が理由か」(最初からの欠陥か、あとからの事情の変化か)という点です。

この記事では、次のことを解説します。

  • 無効の行政行為と、取り消しうる行政行為の違い
  • 取消し(職権取消し・争訟取消し)と撤回の違い
  • 取消し・撤回が制限される場合

前の記事行政行為の効力(公定力・不可争力など)の内容が前提になります。シリーズ全体の流れは行政法の勉強法と全体像でご確認ください。

行政行為の瑕疵とは

瑕疵(かし)とは何か

瑕疵とは、行政行為に法的な欠陥があることです。法律の要件を満たしていない、手続に違反している、といった場合に、行政行為は違法(または不当)なものになります。

瑕疵の例

  • 権限のない者による処分:処分をする権限のない者が行った処分
  • 手続の欠落:法律が定める手続(聴聞や理由の提示など)をしないで行った処分
  • 要件を満たさない処分:法律が定める要件を満たしていないのに行った処分

瑕疵がある行政行為の2つの扱い

瑕疵がある行政行為は、その程度によって、次の2つに分けられます。

  • 取り消しうる行政行為:取り消されるまでは有効なものとして扱われる
  • 無効の行政行為:初めから効力を持たない

違法な行政行為のほとんどは「取り消しうる」にとどまり、「無効」になるのはごく例外的な場合です。

取り消しうる行政行為と無効の行政行為

取り消しうる行政行為

取り消しうる行政行為は、違法であっても、権限ある機関に取り消されるまでは有効なものとして扱われます(公定力)。また、取消訴訟や審査請求の期間が過ぎると、私人の側からは争えなくなります(不可争力)。

無効の行政行為

無効の行政行為は、初めから効力がないものとして扱われます。公定力も不可争力も生じないため、取消しを待たなくても、無効であることを前提に争うことができます。取消訴訟のような出訴期間の制限もありません。

無効を争う方法としては、行政事件訴訟法に無効等確認の訴えが用意されています。詳しくは取消訴訟以外の抗告訴訟で解説します。

無効となる基準(重大明白説)

では、どの程度の瑕疵があれば無効になるのでしょうか。通説・判例は、瑕疵が重大かつ明白である場合に、行政行為が無効になると考えています(重大明白説)。

  • 重大:瑕疵の内容が、法の根幹に関わるほど重大であること
  • 明白:瑕疵が、外見上、客観的に明らかであること

「重大」と「明白」の両方を満たす必要があります。たとえば、行政庁の権限の範囲外の事項について処分を行った場合のように、誰が見ても明らかな重大な欠陥があるときが典型です。

例外的に「明白性」を不要とする判例

最高裁には、第三者の保護を考慮する必要がない場合などには、例外的に「明白」でなくても、「重大」な瑕疵があれば無効とした判例があります(課税処分に関する判例)。ただし、あくまで例外的な判断なので、初学者の方は、まず「原則は重大かつ明白」と押さえれば十分です。

比較表

取り消しうる行政行為 無効の行政行為
効力 取り消されるまでは有効 初めから効力がない
公定力 あり なし
不可争力 あり(期間経過後は争えない) なし
争い方 取消訴訟・審査請求(期間内) 無効等確認の訴えなど(期間の制限なし)

瑕疵の治癒と違法行為の転換

瑕疵がある行政行為でも、一定の場合には、その効力が維持されることがあります。試験での頻度は高くないので、定義を押さえる程度で十分です。

瑕疵の治癒

瑕疵の治癒とは、行政行為の時点では瑕疵があったものの、あとから欠けていた要件が補われて、適法なものとして扱われることです。たとえば、必要な手続を欠いて処分をした後に、その手続が事後的に行われたような場合です。

違法行為の転換

違法行為の転換とは、本来の行政行為としては違法であっても、別の行政行為としてなら適法に成立する場合に、その別の行政行為として扱うことです。たとえば、判例には、すでに死亡していた人を相手方とした農地買収処分を、相続人に対する処分として扱った例があります。

いずれも、行政の判断をむやみに無駄にしないための考え方ですが、国民の利益を害するおそれがあるため、認められる範囲は限定的です。

違法性の承継

違法性の承継とは

行政の活動は、複数の行政行為が連続して行われることがあります。このとき、先行する行政行為の違法を、後行の行政行為の取消訴訟で主張できるかという問題が、違法性の承継です。

原則は承継されない

先行する行政行為は、取消訴訟の期間が過ぎると、不可争力が生じて争えなくなります。そのため、後行の行政行為の取消訴訟で、先行行為の違法を主張することは、原則としてできません(違法性は承継されない)。

ただし、先行行為と後行行為が一連の手続を構成し、同一の目的を達成するための手続である場合などには、例外的に承継が認められます。たとえば、滞納処分の一連の手続(差押えや公売など)では承継が認められる一方、土地収用法の事業認定と収用裁決との間では、承継が認められていません。

この論点は、取消訴訟で何を主張できるかというテーマと関わります。詳しくは取消訴訟の審理と判決で扱うので、ここでは概念の紹介にとどめます。

行政行為の取消しと撤回

取消しと撤回の違い

行政行為の効力をなくす方法には、取消しと撤回があります。この2つは、理由と効力の及ぶ範囲が異なります。

取消し 撤回
理由 行政行為の時点で、すでに瑕疵があった(原始的瑕疵) 行政行為の後に、事情が変わった(後発的事情)
効果 原則として、最初にさかのぼって効力を失う(遡及効) 将来に向かって効力を失う(将来効)
具体例 要件を満たしていないのに出した許可を取り消す 許可を受けた者が、その後に法律違反をしたため、許可を撤回する

次の図のように、時間軸で整理すると分かりやすくなります。

取消しと撤回の違いを時間軸で示した図

なお、授益的行政行為(後述)の職権取消しでは、相手方の信頼を保護するため、将来に向かってのみ効力を失わせるとされる場合もあります。まずは、原則を押さえましょう。

職権取消しと争訟取消し

「取消し」には、誰が取り消すかによって、2種類があります。

  • 職権取消し:処分をした行政庁が、自ら取り消す
  • 争訟取消し:審査請求や取消訴訟によって、審査庁や裁判所が取り消す

争訟取消しについては、行政不服審査法の全体像と取消訴訟の訴訟要件で詳しく解説します。

これに対して、撤回は、処分をした行政庁が、あとから事情が変わったことを理由に、自ら行うものです。G2で触れた附款のうち「撤回権の留保」は、あらかじめ撤回できる旨を付けておくものです(行政行為とは?概念と種類)。

法律の根拠は必要か

行政庁が自ら行う職権取消しや撤回について、法律の根拠は不要とするのが通説・判例です。違法なものを是正したり、事情の変化に対応したりするのは、もともとの処分の権限に含まれると考えられるためです。

ここまでの内容を、「誰が、何を理由に、いつから効力を失わせるか」の3点で整理すると、次のようになります。

  • 職権取消し:処分庁が、原始的瑕疵を理由に、原則として遡及して
  • 争訟取消し:審査庁・裁判所が、原始的瑕疵を理由に、原則として遡及して
  • 撤回:処分庁が、後発的事情を理由に、将来に向かって

取消し・撤回の制限

侵害的行政行為と授益的行政行為の違い

行政行為は、相手方にとってどんな性質を持つかによって、次の2つに分けられます。

  • 侵害的行政行為:相手方に不利益を与える行為(営業停止命令、課税処分など)
  • 授益的行政行為:相手方に利益を与える行為(営業許可、補助金の交付決定など)

侵害的行政行為を取り消したり撤回したりすることは、相手方にとって有利になる結果なので、基本的に自由にできます。問題になるのは、授益的行政行為の取消し・撤回です。

授益的行政行為の取消し・撤回の制限

授益的行政行為を取り消したり撤回したりすると、利益を受けていた相手方が、不利益を受けることになります。相手方は、その行政行為が有効であることを信頼して行動しているので、その信頼を守る必要があります。

そのため、授益的行政行為の取消し・撤回は、相手方の信頼を保護する必要性と、取り消す(撤回する)ことの公益上の必要性を比べて、公益上の必要性が上回る場合に限って認められる、と考えられています。

撤回に伴う補償の問題

相手方に落ち度がないのに、公益上の理由で授益的行政行為が撤回された場合には、相手方が受ける損失について、補償が必要かどうかが問題になります。損失補償については、国家賠償法2条(公の営造物)と損失補償で解説します。

手続上の注意

営業許可の取消しや撤回は、相手方にとっては不利益処分に当たります。そのため、行政手続法が定める聴聞などの手続が必要になる場合があります。詳しくは不利益処分(聴聞と弁明の機会の付与)で解説します。

試験でよく問われるポイント

  • 無効の基準:重大かつ明白な瑕疵(重大明白説)。無効の行政行為には、公定力・不可争力が生じない
  • 取消しと撤回の区別:理由(原始的瑕疵か、後発的事情か)と、効果(遡及か、将来効か)
  • 授益的行政行為の制限:取消し・撤回は、相手方の信頼保護との比較で制限される
  • 法律の根拠は不要:職権取消し・撤回とも、法律の根拠なく行える
  • 違法性の承継:原則として承継されない(例外あり)

確認問題(一問一答)

次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。

問1. 違法な行政行為は、すべて当然に無効である。

答え:×
違法な行政行為のほとんどは、取り消されるまでは有効な「取り消しうる行政行為」にとどまります。無効になるのは、原則として、瑕疵が重大かつ明白な場合です。

問2. 無効の行政行為には、公定力も不可争力も生じない。

答え:○
そのとおりです。無効の行政行為は、初めから効力がないものとして扱われます。

問3. 行政行為の時点ですでに瑕疵があったことを理由に、行政行為の効力を将来に向かって失わせることを、撤回という。

答え:×
原始的瑕疵を理由とするのは「取消し」です。「撤回」は、行政行為の後に生じた事情の変化(後発的事情)を理由に、将来に向かって効力を失わせるものです。

問4. 行政庁が職権取消しや撤回を行うには、それぞれ法律の根拠が必要である。

答え:×
通説・判例は、職権取消しや撤回に、法律の根拠は不要とします。

問5. 授益的行政行為を取り消すときも、相手方の信頼を考慮する必要はない。

答え:×
授益的行政行為の取消し・撤回は、相手方の信頼保護の必要性と、公益上の必要性とを比べて判断されます。

問6. 先行する行政行為の違法は、原則として、後行の行政行為の取消訴訟で主張できる。

答え:×
違法性は、原則として承継されません。先行行為と後行行為が、同一の目的を達成するための一連の手続を構成するなど、例外的な場合に限って承継が認められます。

まとめ

  • 瑕疵のある行政行為は、取り消しうる行政行為と無効の行政行為に分かれ、無効は重大かつ明白な瑕疵がある場合に限られる
  • 無効の行政行為には、公定力・不可争力が生じない
  • 取消しは原始的瑕疵が理由で原則として遡及し、撤回は後発的事情が理由で将来に向かって効力を失わせる
  • 職権取消し・撤回とも、法律の根拠は不要。ただし、授益的行政行為は、相手方の信頼保護のため制限される
  • 違法性は、原則として承継されない

次の記事では、行政庁の判断の余地である「行政裁量」について解説します。

次の記事:行政裁量をやさしく解説

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