行政法総論の第3回は、行政行為に認められる特別な効力です。行政行為には、契約など私人間の行為にはない、行政ならではの効力が認められています。
公定力、不可争力、自力執行力、不可変更力と、似た用語が一気に出てくるため、初学者が最も混乱しやすい分野です。ただ、「公定力と不可争力の違い」さえ押さえれば、全体がぐっと整理しやすくなります。
この記事では、次のことを解説します。
- 行政行為に特別な効力が認められている理由
- 4つの効力(公定力・不可争力・自力執行力・不可変更力)の意味と違い
- 試験での問われ方
行政行為の概念や種類は、前の記事行政行為とは?概念と種類で解説しています。シリーズ全体の流れは行政法の勉強法と全体像でご確認ください。
行政行為に特別な効力がある理由
行政が円滑に仕事を進めるための仕組み
行政は、税金の徴収、営業の許可、建築物の規制など、社会全体に関わる仕事を大量に処理しています。もし、行政の決定が出るたびに「本当に有効なのか」を誰もが自由に争えるとしたら、行政の仕事は止まり、社会が混乱してしまいます。
そこで、行政行為には、行政活動の安定性と実効性を確保するための特別な効力が認められています。
私人間の行為(契約)との違い
契約が違法(たとえば公序良俗に反する契約)であれば、そもそも無効であり、裁判でいつでも無効を主張できます。
これに対して行政行為は、たとえ違法であっても、無効でない限り、取り消されるまでは一応有効なものとして扱われるのが大きな特徴です。たとえば、税務署長が誤った課税処分をした場合でも、その処分が取り消されるまでは、納税義務が存在するものとして扱われます。
4つの効力の全体像
行政行為に認められる主な効力は、次の4つです。
| 名称 | 意味 | 誰に向けた効力か |
|---|---|---|
| 公定力 | 違法であっても、権限ある機関が取り消すまでは、有効なものとして扱われる | 相手方・第三者など、広く関係者 |
| 不可争力 | 一定期間が過ぎると、私人の側からは、取消しを求めて争えなくなる | 相手方・利害関係者(私人) |
| 自力執行力 | 裁判所の判決を経ずに、行政自らが義務の履行を強制できる | 義務を課された相手方 |
| 不可変更力 | 行政庁が、自ら行為を取り消したり変更したりできなくなる | 行政庁自身 |
覚え方のコツは、「誰に対する効力か」で分けることです。公定力・不可争力・自力執行力は私人に対する効力、不可変更力だけが行政庁自身に対する効力です。
公定力
公定力とは
公定力とは、行政行為が違法であっても、無効でない限り、権限のある機関(処分庁・審査庁・裁判所など)が取り消すまでは、有効なものとして扱われる効力のことです。
たとえば、違法な営業停止処分を受けたとしても、その処分が取り消されるまでは、営業停止の効力が生じているものとして扱われます。「違法だから、自分は従わなくてよい」と一方的に決めることはできません。
公定力の根拠
行政事件訴訟法には、行政行為の効力を否定するための専用ルートとして、取消訴訟が用意されています。この取消訴訟によらなければ、行政行為の効力を否定できないという考え方(取消訴訟の排他的管轄)が、公定力の根拠とされています。
初学者の方は、「取消訴訟という専用のルートがあるので、それ以外の方法では効力を否定できない」と理解しておけば十分です。取消訴訟については、取消訴訟の訴訟要件で詳しく解説します。
公定力の限界
公定力が生じるのは、行政行為が違法である場合(取り消しうる行政行為)です。重大かつ明白な瑕疵がある「無効」の行政行為には、公定力は生じません。
無効の行政行為は、初めから効力がないものとして扱われるため、取消しを待たなくても、無効であることを前提に争うことができます。取消しうる行政行為と無効の行政行為の違いは、行政行為の瑕疵と取消し・撤回で詳しく解説します。
公定力と民事訴訟・刑事訴訟の関係
公定力は、「行政行為の効力そのもの」を否定するには取消訴訟などによる必要があるという効力です。そのため、次の点が問題になります。
- 国家賠償請求:違法な行政行為によって損害を受けた場合、行政行為の取消しを経なくても、国家賠償請求ができるとされています。国家賠償請求は、行政行為の効力を否定するのではなく、違法な行為による損害の賠償を求めるものだからです。
- 無効の行政行為:公定力が生じないため、民事訴訟などでも、無効を前提に争うことができます。
初学者のうちは、「国家賠償請求は、取消しを経なくてもできる」という結論を押さえておきましょう。
不可争力
不可争力とは
不可争力とは、一定の期間が過ぎると、私人の側から行政行為を争えなくなる効力のことです。「争えない」とは、取消訴訟や審査請求によって、行政行為の取消しを求められなくなるという意味です。
争える期間は、法律で次のように決められています。
- 取消訴訟の出訴期間:処分があったことを知った日から、原則として6か月
- 審査請求期間:処分があったことを知った日の翌日から、原則として3か月
このほか、処分の日から原則1年という期間の制限もあります。いずれも「正当な理由」があるときは例外が認められます。詳しくは、取消訴訟の訴訟要件と行政不服審査法の全体像で解説します。
公定力との違い
公定力と不可争力は、特に混同しやすい組み合わせです。次の図のように、時間軸で整理すると区別しやすくなります。

| 公定力 | 不可争力 | |
|---|---|---|
| 内容 | 取り消されるまでは、有効として扱われる | 期間が過ぎると、私人からは争えなくなる |
| 期間との関係 | 期間の経過は関係しない | 争える期間の経過が要件 |
| 無効の行政行為 | 生じない | 生じない |
つまり、公定力は「取り消されるまで有効」、不可争力は「期間が過ぎると争えない」という違いがあります。
不可争力が生じても、行政庁は取り消せる場合がある
不可争力は、あくまで私人の側から争えなくなる効力です。行政庁自身を拘束するものではないため、不可争力が生じた後でも、行政庁が職権で行政行為を取り消せる場合があります。
また、不可争力が生じたからといって、行政行為が適法になるわけではありません。違法なまま、争えなくなるだけです。
自力執行力
自力執行力とは
自力執行力とは、行政行為によって課された義務を相手方が果たさない場合に、裁判所の判決を経ずに、行政が自ら義務の履行を強制できる効力のことです。
私人間であれば、お金を貸した人が返してもらえないときは、裁判を起こして判決を得てから強制執行をする必要があります。これに対して行政は、裁判を経なくても、自ら強制執行ができる場合があります。
法律の根拠が必要
ただし、自力執行力は、行政行為に当然に認められるものではありません。強制執行には、法律の根拠が必要です。たとえば、行政代執行法や国税徴収法(滞納処分)などの法律の定めがあって、はじめて行政は自ら強制執行ができます。
具体的な強制の方法は、行政上の強制措置で詳しく解説します。
不可変更力
不可変更力とは
不可変更力とは、行政庁が、一度行った行政行為を、自ら取り消したり変更したりできなくなる効力のことです。
すべての行政行為に生じるわけではない
ここが最大のポイントです。不可変更力は、すべての行政行為に認められるわけではありません。争訟裁断行為と呼ばれる、紛争を裁断する性質を持つ特殊な行政行為に限って認められます。たとえば、審査請求に対する裁決などです。
裁決は、審査請求によって生じた紛争に決着をつける行為です。その裁決を行政庁が自由にくつがえせるとしたら、紛争を解決する意味がなくなってしまいます。そのため、裁決には不可変更力が認められると考えられています。
これに対して、営業許可や課税処分などの一般の行政行為には、不可変更力は認められません。行政庁は、必要に応じて、自ら取消しや撤回をすることができます。
試験でよく問われるポイント
- 公定力と不可争力の区別:公定力は「取り消されるまで有効」、不可争力は「期間経過後は争えない」
- 無効の行政行為:公定力・不可争力のいずれも生じない
- 不可争力の限界:不可争力が生じても、行政庁は職権で取り消せる場合がある
- 自力執行力:行政行為に当然に認められるものではなく、法律の根拠が必要
- 不可変更力:一般の行政行為には認められず、争訟裁断行為(審査請求の裁決など)に限られる
- 国家賠償請求:行政行為の取消しを経なくても請求できる
確認問題(一問一答)
次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。
問1. 違法な行政行為は、取り消されなくても、当然に効力を失う。
答え:×
行政行為には公定力があり、違法であっても、無効でない限り、権限のある機関が取り消すまでは有効なものとして扱われます。
問2. 重大かつ明白な瑕疵がある無効の行政行為には、公定力は生じない。
答え:○
そのとおりです。無効の行政行為は、初めから効力がないものとして扱われます。
問3. 不可争力が生じた行政行為は、行政庁も職権で取り消すことができない。
答え:×
不可争力は、私人の側から争えなくなる効力です。行政庁を拘束するものではなく、行政庁が職権で取り消せる場合があります。
問4. 行政行為には当然に自力執行力が認められるので、法律の根拠がなくても、行政は義務の履行を強制できる。
答え:×
自力執行力による強制には、法律の根拠が必要です。
問5. 不可変更力は、すべての行政行為に認められる。
答え:×
不可変更力は、審査請求の裁決など、争訟裁断行為に限って認められます。一般の行政行為には認められません。
まとめ
- 行政行為には、行政活動の安定性と実効性を確保するため、公定力・不可争力・自力執行力・不可変更力の4つの効力が認められている
- 公定力は「取り消されるまで有効」、不可争力は「期間が過ぎると私人からは争えない」
- 無効の行政行為には、公定力も不可争力も生じない
- 自力執行力には法律の根拠が必要で、不可変更力は争訟裁断行為に限られる
- 前の3つは私人に対する効力、不可変更力は行政庁自身に対する効力
次の記事では、行政行為に瑕疵(欠陥)があった場合の、取消し・撤回・無効について解説します。
次の記事:行政行為の瑕疵と取消し・撤回

