行政法総論の最初の記事は、行政法全体の土台となる基本原理と法源です。この分野は単独で出題されるよりも、他の分野を理解するための前提として問われることが多い、いわば「土台」の知識です。
「抽象的で退屈そう」と感じる方も多いと思いますが、最初から深入りする必要はありません。まずは全体像をつかめば十分です。
この記事では、次のことを解説します。
- 行政法の基本原理である「法律による行政の原理」
- 行政法の法源(ルールの出どころ)の種類
- 法律に書かれていなくても行政を拘束する一般原則
シリーズ全体の流れは、行政法の勉強法と全体像でご確認いただけます。
行政法の基本原理「法律による行政の原理」
法律による行政の原理とは
法律による行政の原理とは、行政は、国民の代表である国会が定めた法律に従って行わなければならないという原理です。
行政は国民の権利や自由に大きな影響を与える力を持っています。その力を、選挙で選ばれた国会が定めた法律によってコントロールしようとするのが、この原理の趣旨です。
3つの内容
法律による行政の原理は、次の3つの内容に分けて整理されます。
| 内容 | 意味 |
|---|---|
| 法律の法規創造力 | 国民の権利義務に関するルール(法規)を新たに作れるのは、国会が定める法律だけである |
| 法律の優位 | 行政活動は、法律に違反してはならない |
| 法律の留保 | 一定の行政活動を行うには、法律の根拠が必要である |
たとえば、「税金を新しく課す」ことを行政が勝手に決めることはできません(法律の法規創造力)。また、すでにある法律に違反する処分はできません(法律の優位)。さらに、国民に義務を課す処分をするには、その根拠となる法律が必要です(法律の留保)。
法律の留保の範囲をめぐる学説
3つのうち、試験で特に問われるのが法律の留保です。「どこまでの行政活動に法律の根拠が必要か」について、次のような学説があります。
| 学説 | 法律の根拠が必要な範囲 |
|---|---|
| 侵害留保説 | 国民の権利・自由を侵害する行政活動のみ |
| 権力留保説 | 権力的な行政活動すべて |
| 全部留保説 | すべての行政活動 |
| 重要事項留保説 | 重要な事項(本質性理論) |
初学者の方は、まず侵害留保説が通説であることを押さえれば十分です。この説によると、国民に義務を課したり権利を制限したりする「侵害的な活動」には法律の根拠が必要ですが、補助金の交付や行政指導のような「非権力的な活動」は、法律の根拠がなくても可能と考えられます。
行政法の法源とは
法源とは何か
法源とは、法のよりどころ(ルールの出どころ)のことです。行政法には「行政法」という名前の単一の法律がないため、さまざまな形で存在するルールをまとめて「行政法の法源」と呼びます。
詳しくは、行政法の勉強法と全体像でも触れていますので、あわせてご覧ください。
成文法源
文章の形で定められた法源です。主なものは次のとおりです。
- 憲法:最高法規
- 条約:国家間の文書による合意
- 法律:国会が制定する
- 命令:行政機関が制定する(政令、府省令など)
- 条例・規則:地方公共団体が制定する
これらには効力の上下関係があり、憲法が最も上位に位置します。下位の法が上位の法に違反することはできません。
不文法源
文章の形になっていないものの、法として扱われる法源です。
- 慣習法:長年の慣行が法的な拘束力を持つようになったもの
- 判例法:裁判所の判断の積み重ね
- 条理:物事の道理。法の欠缺を補う役割を持つ
行政法は法典が整備されていない分野が多いため、不文法源の役割が比較的大きいと言われています。
行政法の一般原則
法律に明記されていなくても、行政活動を拘束する基本的な原則があります。これを行政法の一般原則といいます。
信義誠実の原則(信頼保護の原則)
行政も、国民の信頼を裏切るような行動をしてはならないという原則です。民法の信義則と同様の考え方で、行政が一度示した態度を、正当な理由なく覆すことは許されない場合があります。
この点に関する代表的な判例に、宜野座村工場誘致事件があります。村が工場誘致の方針を示して企業に投資をさせたのに、のちに方針を変更して協力を拒んだという事案です。最高裁は、一定の場合には政策変更によって相手方に損害が生じた際に、行政が責任を負うことを認めました。詳細は判例集等で確認してください。
権利濫用の禁止
行政が権限を行使する際にも、その権限を本来の目的と異なる形で用いること(権限の濫用)は許されません。
比例原則
行政の目的を達成するための手段は、その目的との間でバランスが取れたものでなければならないという原則です。たとえば、軽微な違反に対して極めて重い処分をすることは、比例原則に反するおそれがあります。
平等原則
行政は、合理的な理由なく国民を不平等に扱ってはならないという原則です。
説明責任(理由の提示)
行政が国民に不利益な処分をするときは、その理由を示す必要があります。これは、行政の判断の公正さを確保するための考え方で、行政手続法で具体的に制度化されています。詳しくは、行政手続法の全体像と適用除外で解説します。
公法と私法の区別(簡単に)
かつては、行政に関する法を「公法」、私人間の法を「私法」と区別し、行政には私法(民法など)が適用されないという考え方がありました。
現在では、行政の活動にも民法の規定が適用される場面があるという理解が一般的です。この論点は、試験では深く問われることは少ないため、初学者の方は「公法と私法は厳密には区別されない」という程度で押さえておけば大丈夫です。
試験でよく問われるポイント
- 法律の留保の範囲:侵害留保説では、侵害的な活動にのみ法律の根拠が必要
- 3つの内容の区別:法規創造力・法律の優位・法律の留保は、それぞれ意味が異なる
- 法源の範囲:成文法源と不文法源の区別。条例・規則や条約が法源に含まれることに注意
- 一般原則の判例:信頼保護の原則に関する判例の結論と、その要件
確認問題(一問一答)
次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。
問1. 侵害留保説によれば、補助金の交付には法律の根拠が必要である。
答え:×
侵害留保説は、国民の権利・自由を侵害する行政活動にのみ法律の根拠を求める説です。補助金の交付は侵害的な活動ではないため、法律の根拠は不要と考えられます。
問2. 法律の優位とは、行政活動は法律に違反してはならないという原則である。
答え:○
そのとおりです。法律の優位は、すでに存在する法律に行政活動が反してはならないという原則です。
問3. 国民の権利義務に関するルールを新たに作ることができるのは、原則として国会が定める法律のみである。
答え:○
これが法律の法規創造力です。
問4. 判例法や慣習法は、成文法源に含まれる。
答え:×
判例法・慣習法・条理は不文法源です。
問5. 行政が国民に与えた信頼を裏切る行為は、いかなる場合も許される。
答え:×
信義誠実の原則により、行政も信頼を保護する責任を負う場合があります。
まとめ
- 行政法の基本原理は法律による行政の原理(法律の法規創造力・法律の優位・法律の留保)
- 法律の留保については、侵害留保説が通説
- 行政法の法源には、成文法源(憲法・法律・命令・条例など)と不文法源(慣習法・判例法・条理)がある
- 法律に書かれていなくても、信義誠実・権利濫用の禁止・比例原則・平等原則などの一般原則が行政を拘束する
次の記事では、行政法の中心概念である「行政行為」について解説します。
次の記事:行政行為とは?概念と種類
