行政法総論の第2回は、行政法の中心概念である「行政行為」です。このあと学ぶ行政行為の効力・瑕疵・取消しと撤回はもちろん、行政不服審査法や行政事件訴訟法を理解するうえでも、この記事の内容が前提になります。
「行政行為」は日常では使わない言葉なので、最初は戸惑うかもしれません。ここでは、具体例とセットでイメージをつかむことを重視して解説します。
この記事では、次のことを解説します。
- 行政行為の定義と、身近な具体例
- 行政行為に当たらないもの(行政指導・行政契約・事実行為)
- 行政行為の種類(許可・特許・認可などの分類)
- 羈束行為と裁量行為、附款
行政法の基本原理や法源については、前の記事行政法の基本原理と法源で解説しています。シリーズ全体の流れは行政法の勉強法と全体像でご確認ください。
行政行為とは
行政行為の定義
行政行為とは、一般に次のように定義されます。
行政庁が、法律に基づき、公権力の行使として、一方的に、国民の権利義務その他の法的地位を直接具体的に形成し、または確定する行為
長い定義ですが、丸暗記する必要はありません。まずは「行政が、法律の根拠にもとづいて、相手の同意なしに、国民の権利や義務を決める行為」とイメージしてください。
身近な具体例
次のようなものが、行政行為の典型例です。
- 保健所長が、飲食店の営業許可を出す(または不許可にする)
- 税務署長が、税金の額を決める(課税処分)
- 公安委員会が、運転免許を取り消す
- 市長が、違法建築物の除却(取り壊し)を命じる
いずれも、行政が一方的に決定し、それによって国民の権利や義務が変動する点が共通しています。
行政行為の4つの特徴
定義を分解すると、次の4つの特徴に整理できます。
| 特徴 | 意味 |
|---|---|
| 行政庁の行為 | 国や地方公共団体の機関のうち、意思を決定して外部に表示する権限を持つ「行政庁」が行う |
| 法律に基づく公権力の行使 | 法律の根拠にもとづいて、公権力を行使して行う |
| 一方的 | 相手方の同意がなくても、行政庁の判断だけで効力が生じる |
| 権利義務への直接・具体的な影響 | 特定の人の権利や義務を、直接に、具体的に決める |
民法の契約は、対等な当事者の合意で成立します。これに対して行政行為は、相手方が望まなくても行政庁が一方的に効力を生じさせられる点が大きな違いです。行政が強い力を持つからこそ、行政法には、その力をコントロールするためのルールが数多く用意されています。
行政行為に当たらないもの
行政指導・行政契約・事実行為との違い
行政の活動のすべてが行政行為というわけではありません。次のものは、行政行為とは区別されます。
- 行政指導:行政が相手方に協力を求めてお願いする行為。法的な強制力はなく、相手方は従わなくても法的な不利益を受けません。
- 行政契約:行政が私人と対等な立場で結ぶ契約(公共事業の請負契約、物品の購入契約など)。相手方の合意が必要です。
- 事実行為:道路の清掃や、行政が行う調査など、法的な効果を直接生じさせない行為。
行政行為との区別のポイントは、「相手方の同意なしに、権利義務を直接決める力があるか」です。行政指導と行政契約については、行政契約と行政指導で詳しく解説します。
講学上の行政行為と、法令上の「処分」の違い
「行政行為」は、学問上(講学上)の用語で、法律には登場しません。一方、行政不服審査法や行政事件訴訟法といった法律には、「処分」という用語が使われています。
処分は、行政行為とほぼ重なる概念ですが、完全に同じではありません。たとえば、不法滞在者の収容のように、公権力の行使にあたる事実行為で継続的な性質を持つものも、処分に含まれるとされています。初学者のうちは、「処分」は行政行為を中心に、少し広い範囲を含む用語とイメージしておけば十分です。
この「処分」にあたるかどうかは、行政に不服を申し立てたり、裁判で争ったりできるかどうかに直結します。詳しくは行政不服審査法の全体像と取消訴訟の訴訟要件で解説します。
行政行為の種類(分類)
法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為
行政行為は、まず次の2つに大きく分けられます。
- 法律行為的行政行為:行政庁の「意思」にもとづいて、法的な効果が生じる行為。
- 準法律行為的行政行為:行政庁の「判断・認識」の表示に対して、法律の定めによって法的な効果が与えられる行為。
さらに細かく分類すると、次の表のようになります。
| 分類 | 内容 | |
|---|---|---|
| 法律行為的行政行為 | 命令的行為 | 国民に義務を課したり、義務を解除したりする行為(下命・禁止・許可・免除) |
| 形成的行為 | 国民に特別な権利や法的地位を与えたり、法律行為の効力を補充したりする行為(特許・認可・代理) | |
| 準法律行為的行政行為 | - | 確認・公証・通知・受理 |
命令的行為の4種類
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 下命 | 作為(何かをすること)を命じる | 違法建築物の除却命令 |
| 禁止 | 不作為(何かをしないこと)を命じる | 営業停止命令 |
| 許可 | 法令で一般的に禁止されている行為を、特定の場合に解除する | 運転免許、飲食店営業の許可 |
| 免除 | 作為義務を解除する | 納税の免除 |
形成的行為の3種類
形成的行為には、特許・認可・代理の3種類があります。このうち特許と認可は試験で頻出なので、重点的に押さえましょう。代理は出題頻度が低いため、「行政庁が本人に代わって行為を行い、その効果を本人に帰属させる行為」という意味だけ確認しておけば十分です。
許可・特許・認可の区別(試験頻出)
3つは名前が似ていて混同しやすいため、違いを表で整理します。
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 許可(命令的行為) | 本来自由な行為を、法令で一般的に禁止しておき、特定の場合に禁止を解除する | 運転免許、飲食店営業の許可 |
| 特許(形成的行為) | 国民が本来持っていない特別な権利や、包括的な法的地位を新たに与える | 公有水面の埋立免許、河川の占用許可 |
| 認可(形成的行為) | 私人間の法律行為(契約など)を補充して、その効力を完成させる | 農地の権利移転の許可、公共料金の値上げの認可 |
イメージとしては、次のように覚えると整理しやすくなります。
- 許可:もともと持っている自由の「禁止を解除」する
- 特許:もともと持っていない権利を「新しく与える」
- 認可:当事者同士が結んだ契約の効力を「補強して完成させる」
また、これらの行為を行政庁の許可・認可なしにしてしまった場合の効果にも違いがあります。
- 許可を受けずにした法律行為は、原則として有効です(ただし、無許可営業などとして処罰や監督の対象になることがあります)。
- 認可を受けずにした法律行為は、効力を生じません(無効)。
なお、法令上の用語は、講学上の分類と一致するとは限りません。たとえば、法律に「許可」と書かれていても、講学上は特許や認可に当たるものがあります(上の表の「農地の権利移転の許可」はその例です)。名前ではなく、その行為の性質で判断する点に注意してください。
準法律行為的行政行為の4種類
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 確認 | 特定の事実や法律関係の存否を判断し、確定する | 建築確認、当選人の決定 |
| 公証 | 特定の事実や法律関係の存在を、公に証明する | 選挙人名簿への登録、各種証明書の交付 |
| 通知 | 特定の事項を、相手方に知らせる | 納税の督促 |
| 受理 | 他人の行為を、有効なものとして受け付ける | 婚姻届の受理 |
準法律行為的行政行為は、「確認・公証・通知・受理」の4つの名前と意味を押さえるのが第一歩です。
行政裁量の有無による分類(羈束行為と裁量行為)
行政行為は、行政庁の判断の余地があるかどうかによっても分類されます。
- 羈束行為(きそくこうい):法律が、行政行為を行うための要件と、その効果を一義的に定めていて、行政庁に判断の余地がない行為。要件を満たしていれば、行政庁は必ずその行為をしなければなりません。
- 裁量行為:法律が、行政庁に一定の判断の余地(裁量)を認めている行為。
裁量行為については、行政庁が裁量を誤った場合、裁判所がどこまで違法と判断できるかが重要な論点になります。詳しくは行政裁量をやさしく解説で扱います。
附款(付随する条件)
附款とは
附款(ふかん)とは、行政行為の効果を制限したり補充したりするために、行政行為の主たる内容に付け加えられる条件などのことです。たとえば、営業許可を出す際に「有効期間は3年」といった条件を付ける場合が当たります。
附款の種類
| 種類 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| 条件 | 行政行為の効力の発生や消滅を、将来発生するか不確実な事実にかからせる | 「施設が完成したら許可の効力が生じる」 |
| 期限 | 行政行為の効力の発生や消滅を、将来発生することが確実な事実にかからせる | 「許可の有効期間は3年」 |
| 負担 | 行政行為の相手方に、特別の義務を課す | 「許可を与えるが、一定の設備を設けること」 |
| 撤回権の留保 | 一定の場合に、行政行為を撤回する権利を留保しておく | 「違反があれば許可を撤回することがある」 |
| 法律効果の一部除外 | 法律が定めている効果の一部を、適用しないことにする | 「出張を伴う業務のうち、〜の部分は適用しない」 |
附款は、行政庁に裁量が認められる行為に付けることができるとされ、付けられる附款の内容も、行政行為の目的に照らして必要な限度を超えてはいけません。初学者の方は、まず種類の名称と意味を押さえれば十分です。撤回については行政行為の瑕疵と取消し・撤回でも触れます。
試験でよく問われるポイント
- 許可・特許・認可の区別:意味と例を、それぞれ正確に区別できるか
- 法令上の用語と講学上の分類のずれ:法令上「許可」でも、講学上は特許や認可の場合がある
- 準法律行為的行政行為の4種類:確認・公証・通知・受理の意味と具体例
- 行政行為と、行政指導・行政契約・事実行為の区別:行政指導に法的な強制力はない
- 「処分」と「行政行為」の関係:ほぼ重なるが、完全には一致しない
確認問題(一問一答)
次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。
問1. 許可とは、国民が本来持っていない特別な権利を、新たに与える行為である。
答え:×
これは「許可」ではなく「特許」の説明です。許可は、法令で一般的に禁止されている行為を、特定の場合に解除する行為です。
問2. 認可とは、私人間の法律行為を補充して、その効力を完成させる行為である。
答え:○
そのとおりです。認可を受けずにされた法律行為は、効力を生じません。
問3. 行政指導は、行政行為の一種である。
答え:×
行政指導は、相手方に協力を求めるもので、法的な強制力がなく、行政行為とは区別されます。
問4. 確認・公証・通知・受理は、準法律行為的行政行為に分類される。
答え:○
この4つが、準法律行為的行政行為の種類です。
問5. 法令上「許可」という名称が使われている行為は、すべて講学上の許可に当たる。
答え:×
法令上の用語と講学上の分類は一致するとは限りません。法令上「許可」でも、講学上は特許や認可に当たるものがあります。行為の性質で判断することが重要です。
まとめ
- 行政行為とは、行政庁が、法律に基づき、一方的に、国民の権利義務を直接具体的に決める行為
- 行政指導・行政契約・事実行為は、行政行為とは区別される
- 行政行為は法律行為的行政行為(命令的行為・形成的行為)と準法律行為的行政行為に分類され、特に許可・特許・認可の区別が重要
- 羈束行為は判断の余地がなく、裁量行為は行政庁に判断の余地がある
- 附款には、条件・期限・負担・撤回権の留保などがある
次の記事では、行政行為に認められる特別な効力(公定力・不可争力など)を解説します。
次の記事:行政行為の効力(公定力・不可争力など)

