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行政書士試験行政法

【行政書士試験】行政裁量をやさしく解説|裁量権の逸脱・濫用と判例

行政法総論の第5回は、行政裁量です。行政裁量は、判例を中心に択一式・多肢選択式でよく出題されるテーマで、行政法の得点を左右する分野の1つです。

「裁量」という言葉は抽象的で、最初はイメージしにくいかもしれません。この記事では、身近な例を交えながら、「なぜ裁量が認められるのか」「裁判所はどこまでチェックできるのか」を順に整理します。

この記事では、次のことを解説します。

  • 行政裁量とは何か、なぜ認められるのか
  • 裁量の種類(要件裁量・効果裁量)
  • 裁判所による裁量のチェック方法(社会観念審査・判断過程審査)
  • 裁量権の逸脱・濫用となる典型例と、重要判例

前の記事行政行為の瑕疵と取消し・撤回で見たように、違法な行政行為は取り消される可能性があります。裁量を誤った処分も、この「違法」の一場面です。シリーズ全体の流れは行政法の勉強法と全体像でご確認ください。

行政裁量とは

行政裁量とは何か

行政裁量とは、法律が、行政庁に一定の判断の余地を与えていることです。法律がすべてを細かく決めているわけではなく、行政庁が「処分をするかどうか」「どの処分を選ぶか」などを、一定の範囲で自分で判断できる場合があります。

たとえば、次のような場面です。

  • 外国人からの在留期間の更新の申請を、許可するかどうか
  • 公務員が非行を行ったとき、どの種類の懲戒処分(戒告・減給・停職・免職など)にするか

なぜ行政裁量が認められるのか

理由は、大きく2つあります。

  • 事案の多様性:行政が扱う事案は千差万別で、すべてを法律で一律に決めておくことはできません。個々の事案に合った柔軟な対応が必要です。
  • 専門技術性:原子力の安全性の判断など、専門的・技術的な判断が必要な分野では、専門知識を持つ行政庁の判断を尊重する必要があります。

羈束行為と裁量行為

行政行為とは?概念と種類で触れたとおり、行政行為は、行政庁の判断の余地があるかどうかで分けられます。

  • 羈束行為:法律が、要件と効果を一義的に定めていて、行政庁に判断の余地がない行為
  • 裁量行為:法律が、行政庁に一定の判断の余地(裁量)を認めている行為

この記事で扱うのは、裁量行為です。

裁量の種類

要件裁量と効果裁量

裁量は、どの部分に判断の余地があるかによって、次の2つに整理されます。

種類 裁量が認められる部分 例
要件裁量 法律の要件に当てはまるかどうかの判断(要件の認定) 「公益上必要があると認めるとき」に当たるかどうかの判断
効果裁量 要件を満たした場合に、処分をするかどうか、どの処分を選ぶかの判断 懲戒事由がある公務員に対して、どの種類の懲戒処分を選ぶか

効果裁量は、さらに、処分をするかどうかの判断(決定裁量)と、どの処分を選ぶかの判断(選択裁量)に分けられます。

なお、この要件裁量・効果裁量の区別は、学説上の整理です。判例が、常にこの区別を前提にしているわけではありません。試験対策としては、まず判例の結論を押さえることが重要です。

専門技術的裁量・政治的裁量

裁量が広く認められやすい分野として、次のようなものがあります。

  • 専門技術的裁量:原子炉の安全性の判断など、高度な専門技術的知識が必要な判断
  • 政治的・政策的裁量:外国人の入国や在留の許否など、国の政策的な判断を伴うもの

こうした分野では、裁判所は、行政庁の判断を比較的尊重する傾向があります。

裁量に対する裁判所のチェック(司法審査)

行政事件訴訟法30条の定め

行政庁に裁量が認められていても、その裁量は無制限ではありません。行政事件訴訟法30条は、次の内容を定めています。

行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ、またはその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる

つまり、裁判所が処分を取り消せるのは、裁量権の「逸脱」または「濫用」があった場合に限られます。

「逸脱・濫用」の考え方

  • 逸脱:法律が認めた裁量の範囲を超えること
  • 濫用:裁量の範囲内ではあるものの、その裁量権を、本来の目的に反する形で用いること

ここで重要なのは、裁判所が審査するのは、処分が「違法かどうか」であって、「妥当かどうか(当・不当)」ではないという点です。裁量の範囲内で行われた判断は、裁判所から見て「あまり適切ではない」と思われても、違法にはなりません。この「違法」と「不当」の違いは、後で整理します。

裁量の審査方法(社会観念審査と判断過程審査)

裁判所が、裁量権の逸脱・濫用を判断する方法には、主に次の2つがあります。

審査方法 内容
社会観念審査 処分が、社会観念上、著しく妥当を欠くかどうかを審査する方法。結論の妥当性に着目する
判断過程審査 行政庁が、考慮すべき事項を考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮していないかなど、判断に至る過程に着目して審査する方法

実際の判例では、どちらか一方だけが使われるとは限らず、事案に応じて使い分けられたり、組み合わされたりします。

裁量権の逸脱・濫用となる典型例

ここまでの審査の流れを、図で整理します。

裁量権の逸脱・濫用の判断の流れを示した図

図の「典型例」にあたる類型は、次の表のとおりです。

類型 内容 例
事実誤認 処分の基礎となる事実が存在しない、または事実の評価に誤りがある 違反の事実がないのに、違反があったとして処分した
目的違反・動機の不正 法律が予定している目的とは異なる目的や、不正な動機で処分する 個人的な反感から、許可を出さなかった
比例原則違反 目的を達成するための手段が、目的とのバランスを欠いている 軽微な違反に対して、極めて重い処分をした
平等原則違反 合理的な理由なく、他の同様の事案と異なる扱いをした 同じ違反をした他の者には処分しなかったのに、特定の者だけを処分した
考慮事項の過誤 考慮すべき事項を考慮しなかった(考慮不尽)、または考慮すべきでない事項を考慮した(他事考慮) 本来は関係のない事情を、判断の理由にした

比例原則と平等原則は、行政法の基本原理と法源で解説した一般原則です。法律に書かれていなくても、行政を拘束する原則が、裁量のチェックにも使われます。

重要判例の整理

行政裁量の分野は、判例が頻出します。初学者の方は、まず次の4つの判例について、「何が問題になったか」「どのような審査をしたか」の2点を押さえましょう。

判例 問題になったこと 結論・ポイント
神戸税関事件 公務員に対する懲戒処分 懲戒処分をするかどうか、どの処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任される。社会観念上著しく妥当を欠く場合に限り、裁量権の逸脱・濫用で違法となる(社会観念審査)
マクリーン事件 外国人の在留期間の更新の許否 法務大臣に広範な裁量が認められる。判断が、事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限り違法となる。更新を許可しなかった処分は適法とされた
伊方原発訴訟 原子炉の設置許可 専門技術的な判断には、行政庁の裁量が認められる。裁判所は、判断に至る調査審議や判断の過程に、看過しがたい過誤・欠落がないかを審査する(判断過程審査)
エホバの証人剣道実技拒否事件 宗教上の理由で剣道実技を拒否した学生に対する、学校長の退学処分など 学校長に一定の裁量は認められるが、処分が社会観念上著しく妥当を欠く場合は、裁量権の範囲を超えるものとして違法となる。この事案では、処分は違法とされた

判例の細かい事実関係を覚える必要はありません。「裁量が認められるか」「どのような審査方法を使ったか」「結論は適法か違法か」の3点を、判例ごとに整理しておくと、択一式でも多肢選択式でも対応しやすくなります。

裁量基準(審査基準・処分基準)との関係

裁量基準とは

行政庁は、裁量を行使する際、判断のばらつきを防ぐために、あらかじめ判断の基準を定めておくことがあります。これを裁量基準といいます。行政手続法では、申請に対する処分についての「審査基準」と、不利益処分についての「処分基準」が、これにあたります。詳しくは申請に対する処分と不利益処分で解説します。

裁量基準の位置づけ

裁量基準は、行政機関が内部で定めたルールで、行政規則にあたります。行政規則は、国民や裁判所を、法的に拘束するものではありません(行政立法(法規命令と行政規則)で詳しく解説します)。

そのため、裁量基準に従っていない処分が、直ちに違法になるとは限りません。ただし、合理的な理由なく、基準と異なる扱いをすれば、平等原則や信頼保護の原則に反し、裁量権の濫用にあたる可能性があります。裁量基準は、事実上、行政庁を拘束する面を持っています。

「違法」と「不当」の違い

裁量の問題では、「違法」と「不当」の区別が重要です。

  • 違法:裁量権の逸脱・濫用があり、法に違反している状態
  • 不当:裁量の範囲内ではあるが、あまり適切ではない判断

裁判所(取消訴訟)が取り消せるのは、違法な処分だけです。不当な処分は、取り消せません。

これに対して、行政不服審査法による審査請求では、違法な処分だけでなく、不当な処分も審査の対象になります。審査請求は、行政の内部で行われる審査なので、裁量の当・不当まで判断できるのです。詳しくは行政不服審査法の全体像と取消訴訟の審理と判決で解説します。

試験でよく問われるポイント

  • 行政事件訴訟法30条:裁量権の範囲を超え、またはその濫用があった場合に限り、取り消せる
  • 判例ごとの結論:裁量を認めたか、どのような審査方法を使ったか、適法か違法か
  • 要件裁量・効果裁量の区別:どの部分に判断の余地があるか
  • 裁量基準の法的性質:行政規則であり、直ちに法的拘束力を持つわけではない
  • 違法と不当の区別:取消訴訟では違法のみ、審査請求では不当も審査対象

確認問題(一問一答)

次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。

問1. 裁判所は、裁量処分について、裁量権の範囲内であっても、不当と認められる場合には、その処分を取り消すことができる。

答え:×
行政事件訴訟法30条により、裁判所が裁量処分を取り消せるのは、裁量権の範囲を超え、またはその濫用があった場合に限られます。不当にとどまる場合は、取り消せません。

問2. 要件を満たした場合に、処分をするかどうか、またどの処分を選ぶかについて、行政庁に裁量が認められる場合を、効果裁量という。

答え:○
そのとおりです。要件の認定に裁量が認められる場合は、要件裁量といいます。

問3. 判例は、公務員の懲戒処分について、懲戒権者に裁量を認めたうえで、社会観念上著しく妥当を欠く場合に限り、裁量権の逸脱・濫用で違法となるとした。

答え:○
神戸税関事件で示された判断です。

問4. 行政機関が定めた裁量基準は、行政規則にあたるため、基準に反した処分は、直ちに違法となる。

答え:×
裁量基準は、法的な拘束力を持つとは限らず、基準に反したことだけで直ちに違法とはなりません。ただし、合理的な理由なく基準と異なる扱いをすれば、平等原則などに反して、裁量権の濫用となる可能性があります。

問5. 審査請求では、処分が違法でなくても、不当であれば、その処分を取り消すことができる。

答え:○
行政不服審査法の審査請求では、違法な処分だけでなく、不当な処分も審査の対象になります。

まとめ

  • 行政裁量とは、法律が行政庁に認めた判断の余地のこと。事案の多様性や専門技術性から認められる
  • 裁量には、要件裁量と効果裁量がある
  • 裁判所が取り消せるのは、裁量権の逸脱・濫用があった場合に限られる(行政事件訴訟法30条)
  • 審査方法には、社会観念審査と判断過程審査がある
  • 逸脱・濫用の典型例は、事実誤認、目的・動機の不正、比例原則・平等原則違反、考慮事項の過誤
  • 取消訴訟では違法のみ、審査請求では違法と不当の両方が審査される

次の記事では、行政機関が定める規範である「行政立法」(法規命令と行政規則)について解説します。

次の記事:行政立法(法規命令と行政規則)

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